恩田陸『不連続の世界』

今回の本はこれ!

 

不連続の世界 (幻冬舎文庫)

不連続の世界 (幻冬舎文庫)

 

 

前々から店頭に並んでいるのを見て気になってはいたのですが、なかなか購入する機会がなく、また買ってからも読むタイミングがなくて本棚に積まれていたのを、この前やっとこさ読み終わりました!

 

以下引用は裏表紙の作品紹介です。

妻と別居中の多聞を、三人の友人が「夜行列車で怪談をやりながら、さぬきうどんを食べに行く旅」に誘う。車中、多聞の携帯に何度も無言電話が……。友人は言った。「俺さ、おまえの奥さん、もうこの世にいないと思う。おまえが殺したから」(「夜明けのガスパール」)――他四編、『月の裏側』の塚崎多聞、再登場。恩田陸のトラベル・ミステリー! 

 

内容は、

 「木守り男」

 「悪魔を憐れむ歌」

 「幻影キネマ」

 「砂丘ピクニック」

 「夜明けのガスパール

の5編です。

語り手の視点は、大手レコード会社のプロデューサーを務める塚崎多聞。この男性がいつも冷静沈着、客観的に物事を見極めることのできる、けれど決して主張の強くない存在で、すっと空気に同化してしまう、なんだか不思議な人です。

 

私が一番好きだったのは「砂丘ピクニック」です。

多聞は友人で翻訳家の楠巴に付き添ってT砂丘を訪れます。巴の目的は、彼女が現在翻訳しているフランスの物理学者の自叙伝内にある不可解な記述を解明することでした。その記述とは、目の前に広がる砂丘が「消えた」というものです。「あの大きな砂丘が消える?」多聞はそんな馬鹿なと思いますが、巴との旅で出会う様々な出来事がきっかけで謎は紐解けて……。

ってな感じのお話なんですが、このトリックが本当に面白いんです!!

とても科学的かつ現実的で、だけどロマンチックで淫靡な背景があった上での砂丘が「消えた」なんですよ、わたしびっくりしました。

あまり詳しいことを書くともったいないのであれですが、夜の砂丘とそこにぽつんと佇むフランス人の学者、それを照らす月明り、そして宿で待つ乙姫様を思い浮かべるだけでうっとりしてしまいます。

こういうちょっと大人なラブロマンスみたいな雰囲気が好きすぎてだめですね……。

 

さて、最後のお話は裏表紙でも紹介されている「夜明けのガスパール」です。

これがですね、本当にすごいんですよ。

何がすごいって、「木守り男」から「砂丘ピクニック」までの四編が、まるでこの最後の話に向けた大きな伏線かのようになってるんです。

伏線というか、罠?トリック?作者にまんまとやられた。

 

先に書きましたが、多聞という男は実に冷静沈着で、先入観に囚われず物事の本質を見抜く力を持っています。

その力は他の四編で余すことなく発揮され、一見摩訶不思議で奇々怪々な事象の数々を現実的にずばずばと解決していく様は読んでいてとても爽快です。

だからこそ、読者は最後のお話でもそうなんだろうな~~ってわくわくしながらページをめくっていくわけじゃないですか。

 

なのに!!なのに~~~~~~!!!!!

っていう。

いや、もう言ってしまうと、最後の最後で、誰よりも現実が見えていないのは多聞自身だということが分かるんですよね。

自分にとって受け入れがたい現実を突っぱねて、都合の良い世界に作り替えて認識して、そんな中で生きている男だったわけですよ、塚崎多聞は。

けれどそれは決して悪だとかいうわけではなくて、だからこそ余計にしんどい。

とか言いながら多聞もひとりの人間であることを痛感して、ちょっとほっとしてしまった。

 

「どんでん返し!!!」っていう煽り文句に惹かれちゃう人とか「作者に裏切られるのがたまらなく好き!!!」っていう変態さんにはぜひ読んでもらいたい作品です。

わたしはどっちも当てはまります。

 

前四編で、人間の思い込みや先入観がいかに不思議な現象を作っていくか散々語られているにも関わらず、知らず知らずのうちに「多聞は冷静沈着で、先入観に囚われず物事の本質を見抜く、頭のきれる人物である」と思い込んでいたのは、他でもない私でした。

 

最後の最後の謎が解明されるとき、絶対泣いてしまうと思う。

 なんだかはっとさせられる作品で、とても面白かったです。

 

 

 わたしも夜行列車に乗ってお酒飲みながら一晩中友人と語り明かして~~~~~~~~~~~~