松岡圭祐『瑕疵借り』

今回の本はこれだ~~~!

 

瑕疵借り (講談社文庫)

瑕疵借り (講談社文庫)

 

 

これは完全に帯買いでした。

「事故物件サイト大島てる推薦!」

この一文のインパクトすごすぎませんか??買うしかないでしょこんなの。

 

「大島てる」といえば、いわゆる「訳あり」の物件を検索することができる超有名サイトです。

ああいうの、よっぽどじゃない限り見ない方が良いと思うんだけど、どうだろう。

自分の住んでいる部屋が「訳あり」だった時、どうしていいか分からないし、知らない方が絶対幸せや……。

 

そんな「大島てる」が推薦しているこの作品は、ずばり「事故物件」が主役です。

 

 

以下あらすじは裏表紙から引用。

訳あり物件に住み込む藤崎は不動産業者やオーナーたちの最後の頼みの綱。原発関連死、賃貸人失踪、謎の自殺、家族の不審死……どうすれば瑕疵を洗い流せるのか。男は類い稀なる嗅覚で賃貸人の人生をあぶり出し、瑕疵の原因を突き止める。誰にでも明日起こりうるドラマに思わず涙する〝賃貸ミステリ〟短編集。 

 

ちなみに「瑕疵借り(かしがり)」についての説明が帯にあったので、それも記載しておきます。

 瑕疵借りとは?

賃貸人が死んだり事件や事故が起きたりして、瑕疵告知義務が生じた物件にあえて住む物。瑕疵の告知義務を執行させるために、裏で大家や管理会社がこっそり依頼する。

 

ちなみのちなみに「瑕疵」というのは、不動産用語で「造成不良や設備の故障など、取引の目的である土地・建物に何らかの欠陥があることをいいます。不具合ともいい、キズがあることを意味」します。(ライフルホーム・不動産用語集 https://www.homes.co.jp/words/k1/525000392/ )

この作品で主に取り上げられるのは、物件の物理的なキズや欠陥ではなく、心理的な瑕疵、つまり「前の住人が事故死していて、何か気持ち悪い」というような、不安からくる精神的な物件の欠陥です。

 

そんな瑕疵の原因を突き止めていく本作の主人公が、藤崎という男です。

 

この男がね~~~~もう本当になんというか口数は少ないし不愛想だしなんかぱっとしないし事故物件に住んでるし一見変質者みたいな人なんですが、読み進めるうちにどんどん好きになってしまう優しい人なんですよね……。

正直全編通してあまりにもするする謎を解きすぎでは??って思わなくもないけど、藤崎は経験豊富なベテランの瑕疵借りだし、そうでなくても本当によく周りを観察している人だから分かっちゃうのかなあなんて思います。

 

あと、藤崎は人の気持ちをよく知っている。これに尽きる。

もしかしたら瑕疵借りの経験を通して、知識としてそれを理解しているのかもしれないけど、失踪した少女や自殺した男性がその行為に至るまでの過程なんて、赤の他人に普通分かりっこないやん……。

そういう意味で、十人十色の人の「生」に触れられる作品でもありました。

 

 

実は、ごりごりのホラー小説だと思ってこの本を買ったんです。(あらすじの「思わず涙する」は、怖すぎてっていう意味だと捉えていました)(なんでやねん)

ところがどっこい、ごりごりに泣かせてくる超感動の短編集で、良い意味で裏切られました。

 

 物語は、何らかのかたちで「訳あり物件」と関わることになる人物たちの視点から語られます。

賃貸人と学生時代のアルバイト先で交流があった、失踪した賃貸人の保証人になっていた……などなどつながりは様々ですが、それぞれが「訳あり物件」と出会い、そして藤崎と出会います。

 

 

先ほど、この作品を十人十色の「生」に触れられると評しましたが、語りの視点となるそれぞれの人物たちも、それを感じ取っているような気がします。

自殺を図ったり、失踪したり、病気で亡くなったりした賃貸人たちの本当の思いを解き明かし、理解することで一皮むけていくというか。

物語は決してハッピーエンドではないけれど、なぜか希望にあふれているのがこの作品です。

切なかったり、悲しかったり、やるせなかったり、しんどかったりするけど、なんかあたたかい気持ちになるんですよね、不思議。

 

 

生きていると、つくづく人間って難しいなって思いますが、誰かに寄り添ったり、気持ちを理解しようとすることって大事だなと改めて思いました。 

 

あと、読書ってやっぱりすごいなと。

たぶんこういう「訳あり物件」だとか瑕疵借りだとかに出会ったり当事者になったりすることって、これからの人生ほぼ無いと思うんです。

でも、本でならわたしも登場人物の追体験っていうかたちで自分のものにできて、そうやって知識とか価値観とか、いろいろな成長につながるような気がします。

こういう生き方もあるんだな、やり方、考え方人それぞれだな、そういう風に思えるだけでも、人生の経験値大幅アップみたいな。

 

別にだから本を読むわけじゃないけど、なんとなく、読書が自分の糧になるのかな~~って思ったり、思わなかったりしました。

 

 

ノリで文章を書いているとどうもポエミーになるのが悩みです。